犯罪は国際犯罪組織が関与するものも発生し、事故・災害は大規模化する傾向にある中、一つの国が管轄権を行使できる海域には制約があります。
海に関する問題は、一つの国で解決することが困難なものが多く、海でつながる諸外国と連携・協力して対処することが極めて重要です。海上保安庁では、諸外国との合同訓練や共同パトロール等を通じ、これら海上保安機関間の協力関係を実質的な活動に発展させるよう主導し、さまざまな分野で連携・協力を図っています。
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7 海をつなぐ
CHAPTER I. 各国海上保安機関との連携・協力
犯罪は国際犯罪組織が関与するものも発生し、事故・災害は大規模化する傾向にある中、一つの国が管轄権を行使できる海域には制約があります。 海に関する問題は、一つの国で解決することが困難なものが多く、海でつながる諸外国と連携・協力して対処することが極めて重要です。海上保安庁では、諸外国との合同訓練や共同パトロール等を通じ、これら海上保安機関間の協力関係を実質的な活動に発展させるよう主導し、さまざまな分野で連携・協力を図っています。 1 世界海上保安機関長官級会合(CGGS:Coast Guard Global Summit)
近年、地球規模の自然環境や社会環境の変化により、海洋においても、大規模な自然災害による被害や、薬物犯罪等国境を越える犯罪の脅威が拡大しています。このような地球規模の課題が拡がる中、平和で豊かな海を次世代に継承していくためには、平和と治安の安定機能としての役割を担う海上保安機関が世界的に連携し協力することが強く求められるようになりました。 海上保安庁では、法の支配に基づく海洋秩序の維持等の基本的な価値観を共有し、世界の海上保安機関が力を結集してこれらの課題に取り組むため、平成29年から世界各国の海上保安機関等のトップが一堂に会する「世界海上保安機関長官級会合」を日本財団と共催しています。 令和元年に東京において開催された「第2回世界海上保安機関長官級会合」では、世界各国の海上保安機関が、“the first responders and front-line actors”(海上で「最初に」「最前線で」活動する機関)として共通する行動理念の理解を深めました。 令和3年11月には、史上最多となる、世界から計98の海上保安機関等(88か国及び10の国際組織)の実務者の参加を得て、「第2回世界海上保安機関実務者会合」を初めてオンラインで開催し、今後の会合ではオンラインと対面を併用したハイブリッド形式での会議の開催を可能とすることやオンライン等を活用した海上保安分野の人材育成プログラムを継続実施していくことなどについて、実務者間で合意しました。 令和4年11月には、「世界の海上保安機関のネットワークの活性化及び強化」をテーマにCGGSでは初の試みとなるオンラインシンポジウムを開催しました。シンポジウムでは、米国沿岸警備隊による基調講演や海上保安庁、ギリシャ沿岸警備隊、国連薬物犯罪事務所(UNODC)、欧州海上安全庁(EMSA)によるパネルディスカッションを実施し、これまでCGGSが果たしてきた役割を確認するとともに、この枠組を効果的に活用して世界の海上保安機関間のネットワークを強化する方策について議論しました。 令和元年 第2回世界海上保安機関長官級会合 令和4年 CGGSオンラインシンポジウム 2 北太平洋海上保安フォーラム(NPCGF)
北太平洋海上保安フォーラムは、北太平洋地域の6か国(日本、カナダ、中国、韓国、ロシア、米国)の海上保安機関の代表が一堂に会し、北太平洋の海上の安全・セキュリティの確保、海洋環境の保全等を目的とした各国間の連携・協力について協議する多国間の枠組であり、海上保安庁の提唱により、平成12年から開催されています。 このフォーラムの枠組の下、参加6か国の海上保安機関は、北太平洋の公海における違法操業の取締りを目的とした漁業監視共同パトロールや、現場レベルでの連携をより実践的なものとするための多国間多目的訓練(MMEX)等を行っています。また、今後の連携・協力の方向性やこれまでの活動の成果について議論するため、例年、長官級会合(サミット)と、実務者による専門家会合を開催しています。 令和4年9月には、長官級会合がオンライン形式で開催され、参加6カ国が連携して実施する取組及び今後の活動の方向性について議論が行われたほか、海上での犯罪取締り等に関する情報交換も行われ、北太平洋の治安の維持と安全の確保における多国間での連携・協力の推進が確認されました。 令和4年北太平洋海上保安フォーラムサミット(オンライン形式)の様子 3 アジア海上保安機関長官級会合(HACGAM)
アジア海上保安機関長官級会合は、海上保安機関の長官級が一堂に会して、アジアでの海上保安業務に関する地域的な連携強化を図ることを目的とした多国間の枠組であり、海上保安庁の提唱により、平成16年から開催されています。 令和4年10月には、長官級会合がインドで開催され、新たに国連薬物犯罪事務所国際海上犯罪プログラム(UNODC-GMCP)の参加等について合意がなされました。よって、参加国等は22か国・1地域・2機関となりました。また令和3年12月から、情報共有のプラットフォームとなるHACGAMウェブサイトの正式運用が始まりました。海上保安庁は、アジア地域の諸外国海上保安機関と、ウェブサイトも活用しつつ地域的な連携強化に取り組みます。 令和4年アジア海上保安機関長官級会合の様子 注目を浴びる海上保安庁の国際業務
海洋を巡る世界情勢が緊迫化する中、法執行を任務とする海上保安機関の重要性は、世界的にますます注目を集めています。法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、様々な取組を行っている海上保安庁は、令和4年度、多くの外国機関と交流を行いました。 米国沿岸警備隊マカリスター中将による長官表敬 ニュージーランド海軍本部長による長官表敬 欧州議会議員団との意見交換(長官) イタリア財務警察長官及び駐日イタリア大使による海上保安監表敬 米国沿岸警備隊長官交代式への出席(総務部長) 米国沿岸警備隊任務遂行長官補佐及び国際外交部長への表敬(総務部長) ベトナム海上警察第二管区司令官への表敬(総務部参事官) 1 アメリカ
海上保安庁は米国沿岸警備隊(USCG)を模範として設立、平成22年には「海上保安庁とUSCGとの間の覚書」を署名・交換しました。同覚書に基づき、巡視船艇の相互訪問等の職員交流並びに情報共有・交換を実施しています。 また令和4年5月、米国沿岸警備隊との間で協力覚書に係る付属文書を署名しました。これにより、今後、日米海上保安機関の連携はより一層密になるとともに、日米間の取組は「サファイア」と呼称されました。この「サファイア」の取組として、令和4年には密輸容疑船捕捉訓練及び捜索救助訓練、令和5年には洋上吊上げ救助訓練を実施しました。 海上保安庁は、世界の海上保安機関の連携協力を主導しており、インド太平洋地域の外国海上保安機関に対して海上犯罪の取締り等に必要な能力向上支援にも取り組んでいます。日米海上保安機関合同訓練を通じて、両機関の海上法執行の手法や手続に関する相互理解を深め、互いの能力を向上させるとともに、この実績を積み重ね、外国海上保安機関への能力向上支援等にも反映させていくこととしています。 令和5年 米国沿岸警備隊との合同訓練(於:鹿児島湾) 令和4年 海上保安監と米国沿岸警備隊太平洋方面司令官との付属文書署名式 2 韓国
海上保安庁と韓国海洋警察庁は、海域を接する両国間における海上の秩序の維持を図り、幅広い分野での相互理解・業務協力を推進するため、平成11年からこれまでに合計18回、日韓海上保安当局間長官級協議を開催しています。 令和4年10月には第七管区海上保安本部と南海地方海洋警察庁が、11月には第八管区海上保安本部と東海地方海洋警察庁が、双方の船艇・航空機を用いた日韓合同捜索救助訓練を実施しました。 3 ロシア
海上保安庁とロシア連邦保安庁国境警備局は、海上での密輸・密航等の不法活動の取締り等に関する相互協力のため、平成12年に締結した「日本国海上保安庁とロシア連邦国境警備庁(現ロシア連邦保安庁国境警備局)との間の協力の発展の基盤に関する覚書」に基づき、これまで原則年1回の長官級会合のほか、日露合同訓練等を実施し、協力関係の推進を図っています。 令和4年度は新型コロナウイルス感染症の影響により両機関の対面での交流はできませんでしたが、継続して連携・協力を行っています。 4 インド
海上保安庁とインド沿岸警備隊は、平成11年に発生した、「アロンドラ・レインボー」号(日本人船長・機関長が乗船)がマラッカ海峡で海賊に襲われた事件で、インド沿岸警備隊が海軍と連携して海賊を確保したことを契機に、平成12年以降、定期的に、長官級会合や連携訓練を実施しており、平成18年に「海上保安庁とインド沿岸警備隊との間の協力に関する覚書」を締結し、連携協力関係の強化を継続しています。 令和4年4月には、インド・ゴアで開催されたインド国家油汚染対応訓練(NATPOLREX)への招待を受けて機動防除隊等2名を派遣し、事案対応に関する講演を行いました。 令和4年9月には、日印海上保安機関長官級会談を東京にて約2年半ぶりとなる対面形式で開催し、研修・訓練などの分野において両機関が連携・協力していくことで一致しました。 令和4年 日印海上保安機関長官級会談 令和4年 NATPOLREXにおける講演の状況 5 べトナム
平成27年9月、海上保安庁とベトナム海上警察(VCG)は、海上法執行機関として、安全で開かれ安定した海を維持することが両国の繁栄に寄与するとの価値観を共有し、海上保安分野に係る人材育成、情報の共有と交換の維持などについて協力覚書を締結しました。 令和4年12月には、VCGとの間で第9回目となる実務者会合を開催し、海上保安庁モバイルコーポレーションチーム(MCT)による研修をはじめとする、VCGに対する今後の支援の方向性について合意するとともに、令和5年2月には長官級会合を開催しました。 令和4年 日越実務者会合 令和5年 日越長官級会合 6 インドネシア
令和元年6月、海上保安庁とインドネシア海上保安機構(BAKAMLA)は、海上安全に係る能力向上、情報共有、定期的な会合の開催等に関し、両機関の連携強化を目的とした協力覚書を締結しました。(令和4年7月更新) 令和4年11月には、BAKAMLAとの間でオンライン形式による年次会合を開催し、今後の支援の方向性について合意しました。 令和4年 日尼年次会合(オンライン) 7 フィリピン
平成29年1月、海上保安庁とフィリピン沿岸警備隊(PCG)は、海上保安に関する人材育成、情報交換など、協力を行う分野を明確化し、両機関の更なる協力・連携関係の強化を目的とした協力覚書を締結しました。 令和4年5月には、長官級会合を開催し、今後の支援の方向性について合意しました。また同月、PCGにODAの枠組で供与した2隻目となる97m級巡視船の出港式が開催されました。 令和4年 日比長官級会合 8 フランス
令和3年7月、海上保安庁とフランス海洋総局との間で、海洋状況把握(MDA)を含む海洋安全保障分野における情報共有を推進する更なる協力のためのロードマップに署名しました。 令和5年2月には、日本とフランスの間で第2回日仏包括的海洋対話を開催し、海上保安庁とフランス海洋総局との間で、MDAを含む海洋安全保障における情報共有を推進するために更なる連携強化を図ることを確認しました。 フランス海洋総局副局長による長官表敬 我が国は、海外の地域、特に開発途上にある海外の地域において、大規模な災害が発生した場合、被災国政府又は国際機関の要請に応じ、救助や災害復旧等の活動を行う国際緊急援助隊を派遣しており、海上保安庁の職員も国際緊急援助隊の一員として派遣され、多くの災害事案等に対応しているほか、必要な訓練を実施しています。 国際緊急援助隊救助チームの活動 令和5年 トルコにおける地震災害対応 JICA提供 海上保安庁は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の維持・強化のため、二国間・多国間会合や合同訓練等を通じ、各国の海上保安機関との連携・協力を推進していきます。 |